英会話(名古屋・金山) BRIDGE - Discovery(10章)


Discovery

序章 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章 第9章 第10章 第11章 第12章
第10章   〜シベリア上空の恋〜
旅をしていると、様々な人に出会う。なかには、二度とお目にかかりたくないような人との出会いもあるが、たいていは素晴らしいものだ。私にとって、現地の人々との交流は旅の御馳走である。この御馳走にありつくために、地球をさまよい続けているのかもしれない。

神様のいたずらなのか、時としてこの「御馳走」に「恋」というスパイスがふりかけられることがある。元来、惚れっぽい私である。若い頃の旅はしばしばスパイスが効いていた(本当か?)。

ヨーロッパが大寒波を迎えた冬、私は北欧に旅立った。南回り便を面倒と感じ始めた頃だった。かといって、毎回アンカレッジを経由していたのでは、旅費がかさんで仕方ない(飛行機がシベリア上空を飛べなかった時代である。ヨーロッパ行きは、「アンカレッジ経由」か「南回り」と決まっていた)。私はこの旅で、初めて悪評高いアエロフロート(旧ソビエトの国営航空会社)に乗ってみることにした。12時間でヨーロッパに着くというのは、とても魅力的だったし(当時はアンカレッジ経由で18時間かかった)、なんといっても、料金が南回り便とそんなに変わらない。シートベルトが壊れていたり、デザートのアイスクリームが早い者勝ちだったり、オーバーブッキングされたりするけれど、お金の余裕のない若者には強い味方だった。

さて、成田から乗り込んだ機内には、すでに多くの日本人が着席していた。搭乗券の座席番号を見て、だいたいあの辺りか、と奥へ進む。「あの辺り」の座席はほぼ埋まっていた。黒やグレイの頭にまぎれて金色が1つ。そしてそれは頭1つ分出っ張っている。その男性と目が合った。「スパイス」がふりかけられた瞬間である。私は「恋」してしまった。平静を装って着席するが、心臓はすでに爆音をあげている。私の座席は、通路を挟んで彼の2つ隣だったのだ。

食欲も睡眠欲も失せ、ただひたすら胸の鼓動と戦う、モスクワまでの10時間。何をしても落ち着かない。彼と話すチャンスが巡ってくることを期待しては、次の瞬間にその望みをかき消す。あと1時間。私は、諦めた。

とそのとき奇跡が起こった。彼が隣の日本人男性に声をかけ、席を交換してもらったのだ。一瞬、何が起こったのか理解できなかった。3秒くらいして、状況を把握したときには、彼の青い瞳が私を捕らえていた。私の心臓は爆発寸前。

「お仕事ですか?」
彼が問いかける。
「旅行です」
「こんな季節に?」

確かにモスクワは雪に埋もれている。日本を発つ前日、ヨーロッパで-50℃を記録した、というニュースも見た。しかも、私の目的地はパリやローマではなく、北欧のストックホルムだったのだ。

「どこへ行くの?」
「ストックホルム」
「まさか!」

この会話がすべての始まりだった。飛行機の接続具合から、ロンドンやパリ行きの乗客が多い中、惹かれあった二人が同じ地を目指していたとは。どうしてスウェーデンへ行くのか、という彼の疑問に、私は友人に会いに行くことを告げた。

「どこに住んでいるの、その友達は?」
「R」
「えっ。もう一度言って。もう一度」
「R。小さな町なの」
「まさか!」

彼はその町で生まれ育ち、つい最近まで住んでいたと言う。しかも、私の友人とは1歳違いで、互いに顔見知りだと言うではないか!

重なる偶然に、声を交わして数分後にはともに別世界へワープしてしまったのは言うまでもない。モスクワで1泊して、翌日にストックホルムへ向かう便までもが同じだった。今度は最初から隣合う席に腰かけた。


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