
第4章 〜さらば、エスパニョ−ル その2〜 前回の続きが気になる、という声を頂いたので、今号は前号に引き続きスペインでのハプニングを書いて見たいと思います。 今号を初めてご覧の方は、前号「第3章」をご覧ください。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 たったの2週間でスペインを去ってしまったのは、今考えるともったいない話だ。この国の歴史的遺産を堪能するには、20週間いても足りないくらいだと思う。いくら「病」に侵されたとはいえ、もう少しいてもよかったのではなかろうか。 さて、どこでどう乗り換えてスイスへ向かったのか、今となっては正確に思い出せないが、恐らくバルセロナあたりで夜行の国際列車に乗り換えたのだと思う。国境をまたぐ長距離の移動にはたいていクシェット(簡易寝台車)を利用した。乗車時にチケットとパスポートを係員に預けておけば、翌朝目を覚ます頃には無事目的の国に着いている。ホテル代と時間の節約になる、と好んで利用したものだ。ヨーロッパの国際列車の車両はどこの国のものもよく似ていて、コンパートメントと呼ばれる、いくつもの小さな部屋に分かれている。各部屋は6人分の座席(夜間は寝台)で構成されていて、運がよければ、この部屋を1人か2人で独占できるのだが、季節によっては6人で1部屋を利用することになる。 私の乗り込んだ、スイス行きのその列車は満車に近く、6人で1部屋をシェアすることになった。しかも、私以外は皆男性。こういう場合、女性の私に「どこがいい?」と尋ねてくれることが多く(本当は寝台はすでに指定されている)、その時も例外ではなかった。私は決まって一番上の寝台を希望する。幅が50〜60cmしかないので、落ちることを考えると怖いが、3段式の最下段と真ん中では寝顔を見られるリスクがある。女性ならではの心配もよぎる。荷物を簡単に他人の手の届くところに置きたくもない。そんなわけで、私は荷物ごと最上段へ移動することを常としていた。 寝台の割り振りが決まると、6人の乗客のうち5人は、明日に備えて黙々と寝支度を整え始めた。ところが、残る1人のおじちゃんは、やたら陽気で元気。エネルギーがありあまっているらしい。「お嬢ちゃん、一緒に楽しくやろうよ。ほら、おいしいチョコレートもあるよ(実はスペイン語がわからないので、当てずっぽ)」などと話しかけてくる。私がスペイン語を理解していないことが分かると、ちょっとがっかりした様子を見せ、「ほら、音楽もあるよ」と持参したラジカセのスイッチを入れた。「どこでもガンガン」のあの代物である。しばらく一緒に聴いていたが、午後11時を過ぎて、それまで本や雑誌を読んだり、日記をつけたりしていた4人の男性はさすがに就寝したがっている。 「素敵な音楽だったわ。チョコレートもありがとう。そろそろ、眠りましょ。また明日ね」 とゆっくり英語で伝えてみた。 ところがおじちゃんはますます元気になって、 「まだまだ夜はこれからさ。ここはスペインだ。さあ、一緒に踊ろう(これも、ほとんど当てずっぽ)」 とバッグからカスタネットを取り出し、カンカン、カタカタと鳴り響かせた。おまけに、寝台に挟まれた共有スペースで靴音高らかにステップを踏み始めるではないか。さらに掛け声らしきものまで自ら飛ばしている。 「皆、疲れているの。私も。だから、眠らせて」 勇気をふりしぼって言ってみた。しかし、おじちゃんは英語が分からず、私はスペイン語がわからないから、ややこしいことになる。おじちゃんは私の手をとり、「それなら外で踊ろう。そうだ、それがいい!(当然、これも当てずっぽ)」 と、特大サイズのラジカセを持ち上げた。 おじちゃんを無視して早く就寝したおかげか、無視した罰があたったのか、私は翌朝、異常に早く目を覚ました。早起きは三文の徳。洗面所がこみ始める前に、洗顔と歯磨きを済ませてしまうことにした。 寝台を離れると、どこからともなく音楽と声援が聞こえてくる。声に誘われるままに歩いていくと、とあるコンパートメントで、例のおじちゃんが女性に囲まれステップを踏んでいるではあるまいか! 女性陣もカルメンよろしくの身のこなし。やっぱりここは情熱の国だったのだ。オーレイ! |




































