英会話(名古屋・金山) BRIDGE - Discovery(3章)


Discovery

序章 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章 第9章 第10章 第11章 第12章
第3章   〜さらば、エスパニョ−ル〜
旅も中盤にさしかかると、楽しいばかりでなくなる。私の場合、それはたいてい日本を離れて一月たつ頃にやってくる。一人旅の気楽さが、淋しさに変わる頃だ。朝や昼はまだしも、毎晩一人で食事をとることに、どうしようもない孤独を感じてしまう。その孤独感はいつの間にか溜まってしまった疲労を増幅させ、とたんに無気力になる。

幸か不幸かマドリッド滞在中に、そんな「無気力病」に襲われたことがある。スペインと言ったら情熱の国、くらいは誰でも思い描くイメージだと思うが、そのやたら陽気なスペイン人の中でもマドリレーニョ(マドリッドっ子)は格別。そんな彼らを「病」におかされた私は疎ましく思った。
駅の構内でも店の中でも、ローラースケート(注:当時はローラーブレードではなく、ローラースケートの時代だったのです)で走り回る、ティーネイジャーに腹を立て、どこへ行くにも大きなラジカセを持ち歩き、その箱型の物体から雑音(普通のポップスだったりするのですが、なにぶん「病」にふせっているので・・・・・・)を轟かせる若者に目くじらを立てた。

到着3日後にして早くもマドリッドの喧騒から離れたい、と切に願った。早速、地図と時刻表を片手にセゴビアを目指すことにした。セゴビアはマドリッドの北西88qに位置するカスティーリャの古都である。ローマ時代の水道橋や15世紀に建てられたお城や聖堂など、見どころが豊富なわりに観光客が少ない、と持ち合わせのガイドブックにうたってあったことが、私を惹きつけた。「うるさいマドリレーニョよ、さらばじゃ」と喜び勇んで荷物をまとめ、アト−チャ駅へと向かった。
しかし心の平静を得たのはつかの間、セゴビア行きの列車に乗り込むや否や、私は胸騒ぎを覚えた。マドリレーニョに祟られたかのごとく、そこは私をうんざりさせた典型的エスパニョ−ル(スペイン人)の世界だったのだ。

車内だというのに、ローラースケートでゴロゴロ移動するわ、あっちでガンガン、こっちでガンガン、隣のグループに負けるものか、とラジカセの音量を最大に雑音(失礼!)を垂れ流している。その賑やかなグループの大半は中学校の遠足御一行ときて、事態はさらに悪化する。「ガンガン」に合わせて、大合唱が始まったのだ。しかも、車両ごと同じ歌を歌ってくれればよいものを、あっちのグループとこっちのグループでは歌が違うのだ。「よし、あいつらに負けないように歌うぞ」といっているかどうかは分からないが、これでは大声張り上げ歌合戦だ。3,4曲の異なる歌(しかも意味がわからない……)が私の耳で一つになる。

よく見ると、座席の上で腰を振り振り、踊っている輩までいるではあるまいか!(靴は履いたままなんだよね、きっと) 私の目の前の座席の男女はヒマワリの種を食べている。このローストされたヒマワリの種はエスパニョールの大好物で、そのことに文句はないのだが、彼らは種を口に含むと中身だけを上手に食べ、殻をペッとおかまいなしに吐き散らす。私の膝にも向かいの男女の口から飛び散った殻が、次から次へと落ちる。その度に脚を組み変えたり、ずらしたりして種を払い落とすのだが、そのうちに彼らの無神経さを腹立たしく思うようになる。「いい加減にして!」とどさくさに紛れて日本語で叫びたい気持ちにもなる。

それだけではない。よくよく見ると、殻は床だけではなく、車両の両端に5cmほど積もっているではないか! ペッペッペッペ吐き散らすのもどうかと思うが、掃除もせずに放ったらかしになっている様(もちろん、日に何度か、或いは1度くらいは掃除をしているのでしょうけれど)にうんざりして、「エスパニョールよ、さらばじゃ。二度と来るものか」と心の中で思いっきり叫び、一切の騒音を無視して眠りにつくことにした。

セゴビアでのんびりしてからは、旅の疲れも回復したのか、イライラすることもなくなり、何だかんだ言いながらも、スペインに2週間ほど根をおろした。スペインってやっぱりいいところね、と思いを改め、私はスイスへ向かう列車に乗り込んだ。車内で、陽気なスペイン人のおじちゃんに悩まされることになるとは予想もせず……。


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